舞姫

舞姫

うたたねの夢路に人の逢ひにこし蓮歩《れんぽ》のあとを思ふ雨かな 美くしき女《をなご》ぬすまむ変化《へんげ》もの来《こ》よとばかりにさうぞきにけり 家|七室《ななま》霧にみなかす初秋《はつあき》を山の素湯《さゆ》めで来《こ》しやまろうど 恋《こ》はるとやすまじきものの物懲《ものごり》にみだれはててし髪にやはあらぬ 船酔《ふなゑひ》はいとわかやかにまろねしぬ旅あきうどと我とのなかに 白百合《しろゆり》のしろき畑のうへわたる青鷺《あをさぎ》づれのをかしき夕《ゆふべ》...

午後

午後

二人は先刻《さつき》クリシイの通で中食して帰つて来てからまだ一言も言葉を交さない。 女は暖炉《ストオブ》の上の棚の心覚えのある雑誌の下から郵船会社の発船日表を出した。 さうして長椅子にべたりと腰を下して、手先だけを忙しさうに動して日表を拡げた。 何時の昔から暗記して知り切つたものを、もとから本気で読まうなどと思つて居るのではない。 男の注意をそれへ引いて、それから云ひ掛りをつけて喧嘩が初めたいのであつた。 喧嘩と云つても勝つに決つた喧嘩で、その後で泣く、ヒステリイを起す、...